カフェをこよなく愛する静かな男の駄文

カフェをこよなく愛する静かな男の駄文

カフェ男 〜アナザーストーリー〜

カフェ男 〜アナザーストーリー〜

 

これは、カフェ男が帷子川沿いのアザラシ喫茶に通うことになるずっと前、ニコンちゃんという秋葉原メイドさんガチ恋していた時のお話である。

 

当時、カフェ男は24歳、入社2年目のサラリーマンであったが、会社は残業代もでないブラック企業、夢も希望もなくただ生きているだけの日々を過ごしていた。

もともと公務員志望であったカフェ男だがリーマンショックや震災による不景気で就職に失敗したのである。

 

そんなカフェ男に生きる理由を与えてくれたのがニコンちゃんその人だったのだ。

 

ニコンちゃんは22歳で当時のカフェ男と年齢も近く、黒髪ツインテールでいつも頭にピンクのリボンを付けていた。

オタクに媚びない自然な笑顔にカフェ男は恋に落ちたのである。

 

ニコンちゃんがいる日は、雨であろうと台風であろうと全て店に通いたくさんチェキを撮り、彼女の生誕イベントでは、スタンドフラワーを用意するなどして2年で蓄えた貯金はあっというまになくなったが、他のご主人様からは『ニコンちゃんのTOの人』と呼ばれるようになりカフェ男は幸せであった。

 

ニコンちゃんの生誕準備で既に金は無かったが、生誕では特別ドリンクが用意されていた。

 

モエ・シャンドン(直筆御手紙付き、ニコンカレンダーセット)¥40,000.-

 

『もうお金ないし、ごめんよ、ニコンちゃん』カフェ男がそう伝えると、ニコンちゃんは『店長が勝手に用意しただけだし、高いから気にしないで』と言ってくれたがその顔は悲しげであった。

結局、カフェ男はボトルを2本頼み全てカード払いすることにした。

 

生誕祭は大成功に終わり、ボトル特典の御手紙には今までの思い出が綴られ最後には『カフェ男くん、大好き!!』と書いてありその横には、ニコン、カフェ男と書かれた相愛傘が描かれていた。

 

カフェ男は手紙を読み涙していた。

『こんなに誰かを好きになったのは初めてだよ。』

 

だがそんな幸せも長続きはしなかったのだ。

 

ある日、オタ友からこんな連絡が来たのだ

都営大江戸線六本木駅ニコンちゃんっぽい子がイケ麺と歩いてたよ(震え声)』

ガチ恋のカフェ男にそんな噂は通用しない、、はずであった。

『本人じゃないかも知れないし、仲の良いお兄さんがいるといっていたからお兄さんかもしれない、長年彼氏はいないと言っていたし、』

『いや、そもそも彼氏がいたから何だというんだ、彼氏がいたからといってニコンちゃんへの思いは変わらないし、いやしかしイケ麺、、、』

そんな考えが頭の中をグルグルと廻る。

 

次のニコンちゃんの出勤日、

ニコンちゃんってどんな男の人がタイプなの?』

『急にどうしたの?う〜ん、普通の人が好きかな、のび太君みたいな人とか』

カフェ男はそれを聞いて安心した、当時痩せていて眼鏡を掛けていたカフェ男は『私信か!これは!』等と上機嫌になりその日は終えた。

 

しかし、ついに目撃してしまったのだ。

 

仕事帰りの都営大江戸線六本木駅、楽しそうに手を繋ぎ歩く若いカップル、

ツインテールでも無いしピンクのリボンも付けていないが、あれは間違いなくニコンちゃん、、、』

 

カフェ男は目の前が真っ白になった、『胸が苦しい、、、動機が止まらないよ、』トイレに駆け込み吐いた。

 

『幸い、気づかれていないし、このままカフェからも他界、、、いや違うだろ、彼氏がいるからと言ってニコンちゃんを応援しない、そんな小さい男なのか、カフェ男!』

カフェ男は自分に言い聞かせた。

『そもそも可愛い子に彼氏がいないはずが無いだろ、そんなこと初めから分かってただろ!』

 

カフェ男はそれからも、変わらずメイド喫茶に通った。


ツインテールピンクリボンニコンちゃんいつもの笑顔。

『仕事で落ち込んだ時、失敗した時いつも励ましてくれたニコンちゃん、、、何度この笑顔に救われたことか、』

 

カフェ男のニコンちゃんへの思いは変わらなかった。

しかし、好きだからこそ辛かったのだ。

 

ニコンちゃんが話す旅行や、映画の話、SNSにあげる写真、全て横にはイケ麺彼氏がいるのだ、そう考えると楽しいはずのお話も、涙目で聞き世界が歪んで見えた。

 

ニコンちゃんが楽しそうに話してくれてるのに、、、僕は、、、』

 メンタルが限界を迎えたカフェ男は他界した。

 

カフェ男はイケ麺に勝る部分が何もない自分の事が嫌いになったのだ。

カフェ男は惰性で続けていた仕事も辞め、夢であった公務員試験を受け直し合格した。

地方で6ヶ月間の研修がありSNSにもログインせず、勉強と身体を鍛えることに邁進したのだ。

 

研修も終わり、筋力もついたし、ちゃんとした仕事にもついた、メンタルも強靭になり、自信を付けたカフェ男は再びニコンちゃんに会う決心をしたが、SNSにログインするとニコンちゃんは既に店を辞めていた。

 

カフェ男は遠い空を見つめ呟いた。

ニコンちゃんありがとう、さようなら、、、』

 

カフェ男はこの時、数年後、帷子川沿いのアザラシ喫茶で太った姿で怠惰な生活を送ることになることをまだ知らない。


※フィクションであり実際の人物団体とは一切関係ありません。