カフェをこよなく愛する静かな男の駄文

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オタク恋物語 その1

オタク恋物語

 

時を遡ること、2012年。

当時、私は大学を出て新社会人としてサラリーマンをしており、まだオタクではありませんでした。

 

ある日、大学の友人Kから連絡があったのです。

秋葉原メイド喫茶に一緒に行こうよ」

メイド喫茶なんて行ったことないし、恥ずかしいかからいかないよ」

と難色を示す私にKは説得を続けました。

 

友人Kは、見た目はオタクっぽくなく身長が高く爽やかな男でしたが、最近はメイド喫茶にハマっているようでした。

「推しているメイドさんが卒業しちゃうんだ、頼むよ」

「卒業って、」

私は悩んだ末、友人の頼みという事でメイド喫茶に行くことにしたのです。

 

ご帰宅当日、秋葉原駅で待っていると手に細長い箱を持ったKが小走りで現れました。

「買い物してて遅れたわ、悪いな」

「その手に持ってるのなんだよ、」

「推しメイドさんにプレゼントするアイロン台だよ。」

「アイロン台?」

「本当はアイロンが欲しいと言われたんだけど、お店側が高価なプレゼントはダメだからアイロン台にしたんだ。」

 

駅から彼に案内されたメイド喫茶秋葉原の有名店でメイド喫茶ブームが落ち着いた当時でも、階段まで待ち列ができており、店内は賑わっている様子でした。

 

店に案内されるとメイド服を着た店員と、多数の男性客がチェキを撮ったりワニワニゲームをやったりする特殊な空間が広がっており、私はある種の感動を覚えました。

 

その日、卒業するメイドさんはハムさんという子で、最後ということもありKとハムさんは互いに涙を流し今までの思い出を話しておりました。

 

私はその姿を見てメイドさんとオタクの間にこんなにも深い絆ができるものなのかと深く感動したのです。

 

卒業セレモニーも終わり、店を出た私とKは近くの日高屋に入りました。

 

私はKが酷く落ち込んでいるのではないかと思っていたのですが、Kは以外にもご機嫌で

「実はハムちゃんが、最後にこっそり本名を教えてくれたんだよ!」

と言いスマホを取り出しながら話を続けました。

「ハムちゃんの本名はハシモトムツコなんだって、名字と名前の頭を取ってハムなんだよ、ムツコ素敵な名前だなぁ」

「それ知ってどうすんのよ」

と尋ねる私の前でKはSNSで検索を始めたのです。

「ハシモトムツコ、ハシモト ムツコ、う〜ん、今日の今日じゃまだないか〜」

 

結局、ハシモトムツコは見つからず、私はKと別れました。

 

数週間後、私とKは再びそのメイド喫茶に行くことになったのです。

店に入り私はKに尋ねました。

「その後、ハシモトムツコは見つかったのか」

「全くみつからんよ、新生活が忙しいのかな」

 

そんなことを話していると、一人のメイドさんがKに声をかけてきました。

「Kちゃん久しぶり、ハムちゃん元気にしてるよ〜」

「ハムちゃんは今、どこでなにをされてるのですか、」

「えー、言っていいか分かんないけど、就職して彼氏と同棲してるよー」

Kは驚いた表情で

「ハムちゃんは本名ハシモトムツコで彼氏はいないと、、、」

「ハシモトムツコでハムって、そんなわけないでしょ」

と笑うメイドさん

「そうだよねー、ははは、、、」

Kは笑いながらも泣いていた。

 

「ハムちゃんが幸せならそれでいいよ、、、」

 

その日を境にKをアキバで見かけることはなかった。

 

つづく

 

※フィクションです、実在の人物、団体とは一切関係ありません。